貿易の瞬間 #6|展示会から戻ったら、名刺がほとんどなかった

貿易の瞬間 #6|展示会から戻ったら、名刺がほとんどなかった
本シリーズは Patisco のデモアカウント「鼎立」を使っています。掲載している画面とデータはすべてシステム上で実際に操作して生まれたもので、買い手とサプライヤーのやり取りも含め、作り物の画面ではありません。人物と会話は演出で、イラストはイメージです。画面はシステムの中国語表示のものですが、Patisco は日本語でもご利用いただけます。

物語の時間:展示会が終わって最初の月曜日、朝

十一枚

阿哲は机の上に名刺を一列に並べて、二回数えました。十一枚。

そのうち四枚は既存のお客さん、二枚は隣のブースの営業担当、もう一枚は会場近くの弁当屋のスタンプカードです。いつの間に紛れ込んだのかわかりません。

「社長、前は展示会から戻ると、名刺を輪ゴムで束ねてましたよね。」

林社長がお茶を手にやって来て、並んだ名刺をひと目見ましたが、すぐには何も言いませんでした。

阿哲がそれ以上に眠れなかったのは、展示会の三日目に届いた一通のメールのせいです。アメリカの Dana がとても丁寧に書いてきました。来年、会社としてサプライヤーを整理するので、チェーンとカセットは「二社に集約するかもしれない」。かもしれない、二社、鼎立かどうかは書いていません。

以前のやり方

以前の商売は、かなりの部分が「待つ」ことで成り立っていました。

展示会を待つ。お客さんがブースに来て、ほしいものを言い、営業が書き留めて、戻って見積を出す。紹介を待つ。既存のお客さんが友人を薦めてくれれば、電話一本で話が来る。大口顧客を待つ。大口が一社で生産ラインの半分を支えてくれれば、みんな安心です。

鼎立もこの何年か、そうやってきました。Northwind の年間の量は、小さなお客さん三社分に相当します。だからあの「二社に集約するかもしれない」というメールを、阿哲は三回読みました。

林社長の昔話

林社長は阿哲の隣に腰を下ろしました。

「私が継いだばかりのころ、いちばん大きなお客さんが一度離れたことがある。七年の付き合いで、変えると言ったらあっさりだった。」

「どうしてですか?」

「こっちが何か間違えたわけでもないんだ。あそこはうちの製品でライバルに勝った。そのライバルがもっといいサプライヤーに替えて、追いついてきた。で、あそこも替えないとついていけなくなった。」林社長はお茶をひと口飲みました。「大口が更新しないのは、もともと起きることなんだよ。問題は、そうなったときに手元に何があるかだ。」

阿哲は少し考えました。「じゃあ、新しいお客さんをもっと探さないと?」

「新しいお客さんも変わったんだよ。」林社長は並んだ名刺を指しました。「ブースに来なかったのは、興味がないからだと思うか?」

今のお客さんはどうサプライヤーを探すのか

阿哲はスマホを開き、先月保存したニュースを探し出しました。

「Gartner が 2025 年に発表した調査です。企業の購買担当者六百人あまりに聞いて、61% が、購買の全過程で営業と関わらずに済むのがいちばんいいと答えています。多くの人は、まず自分でネットで調べて、自分で比べるそうです。」

「だろうな。」と林社長。「今のお客さんは入ってきて『こういうものを作ってほしい』なんて言わない。先に自分で一通り調べて、ほしいものがあると確かめてから、やっと声をかけてくる。声をかけられるまで、来ていたことすらわからないんだ。」

「じゃあ、ブースで名刺を置いていかなかった人たちは……」

「とっくにスマホでうちを見ていたかもしれない。見て、そのまま帰ったのかもしれない。」

阿哲はふと三週間前のことを思い出しました。名刺の裏のあの QR コードと、価格を出さないあの「展示会サンプル」公開ページです。

「社長、もし本当に見ていたとしたら、帰ってからどうなるんでしょう?」

林社長は立ち上がり、阿哲の肩をぽんと叩きました。「それは、相手がうちを探したときに、うちが受け止められるかどうか次第だな。」

鼎立が今、出せるもの

阿哲は〔公開ページ管理〕を開き、一ページずつ見ていきます。ヨーロッパ、アメリカ、日本、それぞれの言語と価格。それに展示会用のページは、価格を出さず、そのまま見積を依頼できます。

公開ページの一覧
鼎立の公開ページです。三つの地域に一ページずつ、展示会用に別の一ページ(もう一行はテスト用です)。リンクを受け取った人なら誰でも開けます。

これらのページは、リンクを受け取った人なら誰でも開けます。登録も、先にメールで問い合わせる必要もありません。お客さんが「まず自分で一通り見たい」と思ったとき、鼎立には少なくとも見せるものがあります。

でも、これが最初の一歩にすぎないことも阿哲はわかっています。見たあとはどうなるのか。お客さんが価格を聞きたい、取引したいと思ったとき、そこを受け止められるかどうかは、次回の話です。

以前のお客さん vs 今のお客さん

以前今
サプライヤーとの出会い方ブースに来る、知人の紹介まずネットで自分で調べ、自分で比べる
声をかけるタイミング興味があれば、まず聞くほしいものがあると確かめてから聞く
サプライヤーが気づくときお客さんがブースに入った瞬間お客さんが声をかけた瞬間
チャンスが消えるところ見積が遅い、価格が合わない声をかけられる前に、もう帰っている
社長へのひとこと:大口顧客は離れていくものですし、新しいお客さんも自分からは入ってきません。できるのは、探してくれる人が、見つけられて、理解できて、問い合わせられるようにしておくことです。

この回の背景:

次回貿易の瞬間 #7|向こうはとっくに、うちを見ていた翌朝、阿哲が Patisco を開きます。見たことのない買い手の申請が一件。発行した覚えのない見積書が一枚。相手はポーランドの人で、土曜の夜、ホテルで鼎立の名刺の裏の QR コードをスキャンしていました。次回を読む →
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