貿易の瞬間 #10|「いいって言いましたよね?」「言ってませんよ」

貿易の瞬間 #10|「いいって言いましたよね?」「言ってませんよ」
本シリーズは Patisco のデモアカウント「鼎立」を使っています。掲載している画面とデータはすべてシステム上で実際に操作して生まれたもので、買い手とサプライヤーのやり取りも含め、作り物の画面ではありません。人物と会話は演出で、イラストはイメージです。画面はシステムの中国語表示のものですが、Patisco は日本語でもご利用いただけます。

物語の時間:展示会が終わって最初の木曜日、朝 7:40

増えた 1 行

Jonas はすでに鼎立の招待を受け入れていて、自分のアカウントを持っています。メールの返信はせず、手元の PI を直接修正して、送信してきました。

数量が変わったのは、阿哲(アージャー)も予想していました。1 行増えたのは BB(ボトムブラケット)のセットで、「ついでに」とのこと。ところが単価の欄を長いこと眺めていると、どうも何かがおかしいのです。

ようやく見つけました。チェーンの単価が 0.3 下がっています。

打ち間違いではありません。Jonas が数量を直すついでに 1 か所変えて、何も言わなかったのです。

阿哲はディスカッションで尋ねました。Jonas の答えは「You said it was OK at the fair.」。

展示会のブースで阿哲が言ったのは「same price as last year」です。そこは間違いありません。

以前のやり方

こういうことは、以前は目で探すしかありませんでした。お客さんが前の版の PDF や Excel をコピーして、修正して送り返してくるのです。

阿哲は、自分が送ったものとお客さんが返してきたものを並べて、1 行ずつ確認します。一度確認したら、もう一度。見つけたら、そこから言い合いが始まります。「いいって言いましたよね?」「言ってませんよ」。お互いにメールや展示会のメモをひっくり返して、証拠を探すことになります。

見つけられなかったら? 出荷して照合する日になって、秀琴さんがチェーンの金額が足りないことに気づきます。そのころ貨物は、もう海の上です。

Patisco でのやり方

原本とコピー

まず、考え方を 1 つ。Patisco では、阿哲が発行した PI を原本と呼びます。Jonas の側に届くのは、自動で作られるコピーです。書類番号は同じですが、2 つはそれぞれ独立しています。Jonas が直すのは自分の分、阿哲が直すのは自分の分です。

Jonas がコピーを修正して〔送信〕を押すと、阿哲の側に見えるようになります。(お客さんがアカウントを持っていない場合は、#8 の代理作成コピーになります。相手が送ってきた原文のとおりに、こちらで控えを作るものです。)

書類ミニ講座|修正の記録:1 枚の書類が発行されてから確定するまでには、何度もやり取りが発生します。数量、単価、納期、品目。そのたびに誰が何をいつ変えたのか、それが修正の記録です。言い合いになったとき双方に必要なのは、声の大きさではなく、この記録です。

変わった箇所をそのまま示す

今回、Jonas はシステム上で修正しました。阿哲が PI-0411 を開くと、ヘッダーには〔こちらの返答待ち〕の表示。〔変更差分〕はオレンジ色に変わり、「相手側に変更あり、クリックして比較」と出ています。

PI ヘッダー:こちらの返答待ち、変更差分がオレンジ色に
相手が修正すると、ヘッダーが変わります。こちらが返す番で、何が変わったかはクリックすれば見られます。

開いてみると、左が Jonas が送信した時点の版、右が阿哲の側の版です。数量の変更、BB の追加行、チェーン単価のマイナス 0.3。3 か所すべてに印が付いています。PDF を並べる必要も、二度確認する必要もありません。

差分ダイアログ
変わった箇所をそのまま示します。数量、追加された品目、下がった 0.3。

阿哲は 1 項目ずつ処理していきます。数量は〔相手側の値を採用〕。BB は〔追加を受け入れる〕。チェーンの単価は採用せず、元の価格のまま。そして〔送信〕を押し、ひと言添えました。「Chain price stays as agreed at the fair. Same price as last year.」

言い合いの前に、まず記録を

今回は展示会のメモをひっくり返す必要がありません。〈変更履歴〉に、すべての版が残っています。阿哲が最初に送信した v1 のチェーンは元の価格。Jonas が修正した版は、Jonas 自身が送信したものです。どの版も〔PDF をプレビュー〕で確認できます。

阿哲は長いメールを書きませんでした。ひと言返しただけで、Jonas もそれ以上は争いませんでした。

その日の午後、Jonas の側で〔確認する〕が押され、PI-0411 のヘッダーは〔双方確認済み〕に変わりました。

AI は何を手伝えるの?

会社で AI の設定をオンにしていれば、差分画面には〔AI 提案〕のボタンもあります。双方の違いを読み取って、「数量は受ける、値下げは受けない」といった返し方の方向を 3、4 通り示し、提案した数字を下書きに入れてくれます。

ただし、AI が入れるのは下書きだけです。代わりに送信することはありませんし、通貨、貿易条件、仕様を変えることもできません。〔送信〕を押すのは、必ず人です。

〔AI 提案〕
AI が返し方の方向をいくつか示し、数字を下書きに入れます。送信するかどうかを決めるのは、あなたです。

以前 vs Patisco

以前Patisco なら
相手が何を変えたかPDF を 2 つ並べて 1 行ずつ確認差分画面が変わった箇所を示す
どう返すか自分の Word を直して送り直す1 項目ずつ採用・不採用を決めて〔送信〕
「いいって言いましたよね?」メールやメモから証拠を探すすべての版が変更履歴に残っている
見つけられなかったら照合の日に発覚変わった箇所は送信された時点で見える
社長へのひとこと:以前の修正は根回し頼みで、誰が何に同意したかは記憶頼みでした。今は、修正のたびに 1 件の記録が残ります。

その日の夕方

一件落着。上機嫌の林社長は、みんなの分のドリンクをおごることにしました。台湾のオフィスでは定番の、ドリンクスタンドの共同注文です。

注文をまとめていた秀琴さんが、阿美(アーメイ)の席の横で足を止めました。「いつものでいい? 無糖、氷なし?」

「ホットにしようかな」と阿美。「お医者さんに、冷たいものは控えめにって言われてて」

秀琴さんはうなずいて、ごく自然に続けました。「そうだよね。予定日はいつだっけ?」

「5 月末です」

オフィスが 2 秒ほど静まり返りました。

阿哲が振り向きます。「……予定日って、何の?」

林社長の湯のみが、宙で止まりました。「阿美、それは……いつの話だ?」

阿美は男性 2 人を見て、秀琴さんを見て、ため息をつきました。「上着だって 2 枚重ねてるんですよ。本当に全然気づかなかったんですか?」

秀琴さんが阿哲の肩をぽんと叩きます。「Jonas の 0.3 には気づくのに、これには気づかないの?」

「あれはシステムが教えてくれたんですよ!」

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